岡根谷実里さん
国連工業開発機関(UNIDO)本部プログラム開発・技術協力局環境管理部
インターン期間:2012年10月~2013年1月
■はじめに■
2012年10月から2013年1月までウィーンの国連工業開発機関(United Nations Industrial Development Organization: UNIDO) でインターンシップをさせていただきました。終わってみて思うのは、このインターンシップを通して自分のキャリアに対する考えや可能性が大きく広がったなということです。国連インターンシップを検討している方の参考になればと思い、自分の経験をご報告させていただきます。情報に偏りがあるかもしれませんが、国連インターンシップを経験した一人の日本人の話として参考にしていただければ幸いです。
国連機関のインターンシップを知ったのは、友人の紹介からでした。国際協力に関心を持ち将来の可能性の一つとして国連機関で働くことをぼんやりとながら考えていたことから、興味を持ち情報を収集しました。ウィーンに留学しておりビザや住居の心配がなかったことと、大学での専攻分野と近かったことからUNIDOに応募し、運よく採用されました。
中に入ってみると、日本人インターンの少なさに驚きました。UNIDOのインターンは私一人だけで、日本人のインターンは数年ぶりということでした。ヨーロッパの学生と比べて地理的に遠いことやビザを取得しなければならないことなど準備の手間が多いことが影響しているのかもしれませんが、インターンシップは国連機関の内部を知るとてもよい機会ですしインターンから正規採用につながるケースも多いので、挑戦してみる価値は十分にあると思います。
■仕事内容■
配属されたのはEnvironmental Management BranchのStockholm Convention Unitという、残留有機汚染化学物質管理を扱う部署でした。配属先希望はBranchレベルで申告するため、希望していたEnvironmental Management Branchではあるものの、自分の専攻している水資源分野ではなく化学系のUnitに配属され、予備知識のなさに始めは当惑しました。日々の仕事の内容はそれほど専門知識を必要とするものではありませんが、正規職員(Pスタッフ)の方は当該分野の博士号を持っているケースが多く、プロジェクトの全体像を把握しより合理的な予算配分等をするためにも、確かな専門性を持っていることは採用の際にも仕事をする上でも非常に強みになると感じました。
始めの一ヶ月は主に調査とレポート書きを任されました。ストックホルム条約は残留性有機汚染物質の製造と使用を規制する条約です。新たに9つの化学物質が追加されたため、新しい枠組みをどう批准するか、国ごとにプランを更新する必要があります。背景として各国の今までの取り組みや現在の状況を調べてまとめ、プロジェクト文書の一部を書くことが主な仕事の一つでした。簡単そうに見えて、簡潔で論理的な英語の文章を書くことが思った以上に難しく、数時間かけてようやく数行ということもありました。上司のアドバイスとサポートによりGMAT(Graduate Management Admission Test)のテキストを使ってライティングの特訓を始めました。仕事内容と直接関係ないにも関わらず時間を割いて添削してくれた上司には非常に感謝しています。
二ヶ月目からは、上述の仕事もしつつ、研究に重点を置くようになりました。自分の専攻を活かせるテーマということで、上司と相談してセルビアの汚染埋立地の洪水リスク評価を行うことにしました。てきぱきこなす日々の業務の他にじっくり取り組む課題を与えてもらえたことはとてもよい経験でした。大学の研究室と違って相談できる人やリソースが限られている分難しいこともありましたが、主体性をもって行動することの重要性を学ぶよい機会となりました。他のインターンも、日常業務とじっくり取り組む研究課題と両方を与えられているケースが多いようでした。
■職場環境■
驚いたのは、職員の方が非常に自由な働き方をしているということでした。膨大な仕事量をこなしながら定時に帰宅して子供との時間を確保している上司の効率のよさには感心させられました。一方で、おしゃべりと内職に忙しくなかなか仕事が進まない同僚もいて、色んな国の多様なバックグラウンドの人が働いている国連機関ならではの面白さだなと感じました。
正規職員はキャリアを積んだ方が多いですが、コンサルタントスタッフは年齢の近い若手の人が多く、気楽に話ができるのでよく相談に乗ってもらったり休みの日に一緒に出掛けたりしました。国連スタッフというとすごく遠い存在のように思えますが、実際に一人の人間として付き合ってみると結局は自分と同じ人間だということが感じられ、国連で働くことが現実的なこととして考えられるようになりました。
■国連インターンシップの利点■
実際にインターンシップをした経験から、国連機関への就職を考えている人にとって、国連インターンシップの利点は主に3つあると考えます。
一つ目は、国連の仕事を疑似体験することを通して自分に必要な力を発見できるということ。完全に正規スタッフと同等の仕事内容と責任が与えられる訳ではありませんが、私の場合、自分の仕事をこなしたり他のスタッフの仕事を見ている中で、想像していた以上に文書を書く機会が多く、英語で論理的かつ十分な内容の文章を書く能力が重要視されているということを痛感しました。日本人職員数が拠出金の割に少ないのも、語学力、特に書く力がネックになっているという話を聞きました。想像と実際とのギャップと自分に不足している能力に気づけたことは大きな収穫だと思っています。
二つ目は、他のインターンや職員の方を通じて情報収集ができるということです。UNIDOは常時60人くらいのインターンがおり、インターン同士で昼食に行ったり金曜日の夕方にUNバーに集ったり、インターンのネットワークは活発です。自分と同じような道を目指している人、違うアプローチを取っている人、色んな人たちの話を聞くことは刺激的でした。後述しますが、主にヨーロッパの学生たちがネットワークづくりに必死になっていることは興味深い発見でした。また、私は日本人職員の方々と積極的に連絡を取り、その方の経験やキャリアの話をよく聞かせていただきました。同じ日本人の立場から国連職員を目指した方のお話は、自分のキャリアパスを考える上で非常に参考になりました。さらに、外務省日本政府代表部の方にも採用プロセスやキャリアについて色々アドバイスいただき、大変お世話になりました。
三つ目は、将来の雇用の可能性です。インターンシップでの働きが認められて一定期間後に正規採用されるというケースも多く、またすぐに採用につながらなくても内部にネットワークをもっていることは将来応募する際に有利に働くということで、積極的にネットワークづくりに励むインターンも多いです。単なる仕事の疑似体験ではなく将来の採用へのステップとしてインターンシップを捉えている人が多いことが印象的でした。仕事に割ける時間と労力をネットワークづくりに費やすことに関しては賛否両論あると思いますが、インターンシップが採用のための有力なパスの一つであることは確かで、振る舞い方次第で可能性は十分に広がると思います。またかつての私のように国連職員を雲の上の存在のように感じている人にとっては、国連の職場を身近に感じられることだけでも大きな一歩であると感じます。
費用や学校の心配もあると思いますが、思ってもいなかった道が見えてきたり、新しい可能性に気付けたりするので、国連機関就職やインターンシップに興味のある方はぜひ思い切って応募してみることをお勧めします。