引原大使 新年のご挨拶(2021年1月4日)

令和3年1月4日

特命全権大使
在ウィーン国際機関日本政府常駐代表
引原 毅
  
 謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
 
 新しい年をロックダウンの中で迎えることになりました。新型コロナウイルス感染症の拡大で世界全体が大きな混乱を強いられ、人々の命や生活、経済と社会の存続に直接かかわる脅威に直面しています。国際社会のガバナンスの一環を担う在ウィーン国際機関にとっても、これは未曾有の挑戦です。
 
 対面での多国間会議の開催が難しくなり、協力現場でのプロジェクト実施も容易ではありません。各国際機関はこうした様々な活動上の困難に対して、オンライン参加を活用した会議開催、地域事務所への権限委譲等、様々な工夫をこらした任務遂行を図っています。その上で、当面の最重要課題となったコロナ危機に活動の焦点を迅速、柔軟にシフトしつつ、各々の専門性を活かした様々な国際協力を展開しています。この状況はウィーンが担う多国間主義の重要な意義を、改めて私たちに認識させるものです。
 こうした取り組みに日本国民の皆様や日本企業からの力強い支援が寄せられていることを誇りに思います。同時に、国際機関で働かれる日本人職員の方々のご活躍に改めて敬意を表します。
 当代表部としましても、厳しい環境の変化を乗り越え、我が国として間断ない国際協力の継続を担保するために、職員一同、創意工夫を図りつつ本年の業務に取り組む決意です。
 
 本年3月京都で、第14回国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)が国連薬物犯罪事務所(UNODC)主催により、オンライン参加も交えたハイブリッド形式で開催されます。国際社会における法の支配の普及をリードする我が国の姿勢を示す格好の機会です。私は、政治宣言交渉の議長として、今後の犯罪防止・刑事司法分野の政策指標となる政治宣言の策定に向けて、引き続き全力で取り組みます。UNODCとはさらに、テロや国際犯罪、腐敗、薬物問題などグローバル化に伴って深刻化する世界的課題に対処するため、日本の専門的知見も生かしつつ、しっかり協力していきます。
 原子力の分野では、本年、ニューヨークで5年に一度の核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議が開催される予定です。国際原子力機関(IAEA)においても、この節目の機会を念頭に、核不拡散や感染症対策を含む原子力の平和的利用の促進について更なる議論が行われます。勿論イラン、北朝鮮といった核不拡散上の重要課題に対する取り組みは一刻も止まることはありません。我が国は、日本と世界の平和、安全及び繁栄の確保・増進に向け、これらの活動に積極的に貢献していきます。
 本年は、包括的核実験禁止条約(CTBT)の署名開放から25周年に当たります。我が国は、唯一の戦争被爆国として、核兵器のない世界に向けて本条約の早期発効に引き続き取り組み、核実験検知体制の強化のために途上国を支援していきます。
 ワッセナー・アレンジメント(WA)や原子力供給国グループ(NSG)といった輸出管理レジームの議論においても、我が国の強みである技術的な知見も活かして積極的な役割を果たしたいと考えています。
 我が国は、産業開発分野で独自の強みを持つ国連工業開発機関(UNIDO)と協力し、日本企業の技術を活かして途上国のコロナ危機対策を支援しています。本年も同機関の政策決定にしっかりと関与し、効果的なコロナ対策とSDGsの実現に向けた歩みを後押しして参ります。
 世界の宇宙活動がますます活発化・多様化し、社会・経済に大きな便益をもたらすようになっています。本年は、我が国専門家が、宇宙分野の国際的なルール作りを担う国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)法律小委員会の議長を務めます。我が国は、宇宙分野の先端的能力・知見を生かし、国連宇宙部(UNOOSA)と協力して、国際的なデブリ問題への対処、宇宙空間における法の支配、宇宙技術を活かしたSDGs達成に一層貢献していきます。
 
 本年も大きな挑戦の一年となることは間違いありません。このような時こそ、国際社会の知恵と力を結集して多国間主義の強化を図りつつ、一つ一つの課題にしっかりと取り組むことが、私たち日本政府代表部の責務だと考えています。皆様の一層のご理解とご協力を賜れればまことに幸いです。

 本年の皆様のご健康とご多幸を心からお祈り申し上げ、新年のご挨拶といたします。