CTBTOでインターンとして働いて-東京工業大学 博士課程1年 村本武司さんへのインタビュー
平成31年2月19日
CTBTOでインターンとして働いて
-東京工業大学 博士課程1年 村本武司 さんへの
インタビュー
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部署:国際データセンター局ソフトウェアアプリケーション課
期間:2018年10月1日~2019年1月31日(4ヶ月間)
(1)CTBTOへの応募のきっかけは
修士1年の秋に大学のプログラムで、ウィーン所在の国際機関を訪問したことがきっかけです。国際原子力機関(International Atomic Energy Agency:IAEA)や包括的核実験禁止条約機関(Comprehensive Nuclear-Test-Ban Treaty Organization:CTBTO)といった国際機関職員の方と直接お話をしました。その時に各国の専門家がひとつの目標に向けて協力して仕事をすることに対して漠然とした憧れを抱き、将来自分も国際機関で仕事ができたらいいなと思うようになりました。その始めの一歩としてまずは国際機関でインターンシップをしようと決意しました。
数ある国際機関の中でCTBTOに応募した理由は、原子力を学ぶ中で核不拡散分野に興味を持ったことと,研究で数値解析を行っていたのでその経験がCTBTOでのデータ解析業務に活かせると考えたためです。さらにこれまでにCTBTOの技術系の部署でインターンをした日本人がいなかったことも理由のひとつです。先方との繋がりが無い状態では国際機関の一般の選考プロセスを経ることが必要となり,インターンの受け入れ可否決定の際にもともと繋がりがある場合と比べ大変ですが、将来国際機関に正規職員として応募する時に非常に役に立つ経験になると思いCTBTOに応募しました。
(2)CTBTOでの業務内容は
CTBTOは現在世界に約300箇所の監視施設を有しており,そのうちの80箇所が放射性核種観測所です。さらに放射性核種観測所の半数は希ガス検知のための観測所ともなっています。核実験や原子力事故の後には、キセノンの放射性同位体(135Xe、133Xe、131mXe、133mXe)がウランの崩壊によって生成されます。キセノンは希ガスであり、化学的安定性および長い半減期を有するため、キセノンを検出することは、核実験のモニタリングに適しています。
CTBTOでは希ガス計測のためにβ-γ同時計測法という手法を用いて放射線量を測定しています。各地で得られた観測データは日々国際データセンター(International Data Center: IDC)に送られてきます。これらのデータは解析ソフトウェアなどでスペクトル解析をすることで最終的に放射性核種の濃度などに変換されます。現在用いられている解析ソフトのアルゴリズムは、煩雑な多項式を解くものであり計算コストの観点などからアルゴリズムに改善の余地があると考えられています。一方で行列演算を適用した解析手法も新たに考案されてきました。適切な式のモデル化と行列演算を併用することにより煩雑である計算処理を簡略化することができます。
以上より、私のインターンシップの目的は、行列演算を用いた解析手法がCTBTOの解析ソフトウェアに実装可能かどうかを明らかにすることでした。主な業務内容は上司がアルゴリズムを考え、それを基に私が計算プログラムを作りました。さらに作成したプログラムを用いてスペクトル解析を行い既存の解析データとの比較を行いました。使用したプログラミング言語はPythonです。
(3)CTBTOでの勤務で学んだことは
主に今回のインターンシップで学んだことは大きく3つあります。
1つ目は放射線測定に関する知識とプログラミング技術です。大学では主に数値流体解析や原子力安全に関する研究を行ってきました。従ってインターンを通してこれまでの専門以外の分野に知見を広げることができました。また私の配属部署はプログラマーも多く在籍していたので彼らから良いプログラムの書き方なども学ぶことができました。
2つ目は、国際的な場での仕事の進め方です。着任当初は、私がどのような人間で、何ができて何ができないのかが、語学の壁もあり上司にうまく伝えることができませんでした。そのような状況にも関わらず、短い期間を無駄にはできないと焦ってしまい、上司の考えに対して一方的に自分の意見を述べたりなどと、前のめりになってしまっていました。そのため、良いコミュニケーションが取れていなかったと思います。これではだめだと思い、毎日上司ところへ行き話しをし、そして上司に言われた仕事を正確にこなそうと務めました。すると、お互いのことを理解することができるようになり、信頼関係が築けたと思います。それからは色々な作業を任せてくれるようにもなり、生産性もぐっと上がりました。この経験より、国際的な場とはいえ、人と人との付き合いですから良い仕事をするためにはまずは信頼関係を築くことが大切であると学ぶことができました。
CTBTOの上司,同僚と(中央右が筆者)
3つ目は自身のネットワークを広げることができました。インターンシップ期間中はCTBTOだけではなく、IAEA等の国際機関で働く方々また日本の企業からこられている邦人職員の方との交流が多くあり、ネットワークが広がりました。出会った方々は皆様々な経験をしてこられていて、お話を伺うことで仕事のことや人生についてのことなど多くの学びがありました。
(4)語学の点で何か感じたことはありますか
私自身、海外に住むことは初めてであり、英語も得意というわけではなかったので、始めの頃はやはり苦労しました。日々の業務は数式を基にプログラムを書くことであったのでそこまで語学の能力は求められなかったのですが、月に何度かあるミーティングは特に苦労しました。そこでミーティングの前はあらかじめ資料やプレゼンテーションを準備するなど、伝え方を工夫することで意思疎通を図ることができるようになりました。またウィーン国際センター(Vienna International Centre: VIC)(※IAEAやCTBTOなどの国際機関事務局が入居する本部ビル)内で英会話の授業を受けることができたので、週2回受講しました。この英会話はVICで働く国際機関職員やそのご家族も受講できるので、授業を通して仕事仲間以外の繋がりもでき、私にとって良い息抜きの時間にもなっていました。今後も語学は継続的に勉強していきたいです。
VIC内に掲揚されている各国の旗の前で(筆者)
(5)今回のインターン経験を今後どのように活かすことができると思いますか
まずはプログラミングに関する知識や技術は今後大学で研究をする上で、データ処理の場面などですぐに役に立つと考えます。次に仕事に対する向き合い方ですが、これは国際的な場に限らず、研究や就職した時に役に立つのではないかと考えます。最後にインターンシップを通してできたネットワーク、そこで得た情報は今後の私のキャリアパスを考える上で活かすことができると考えます。勿論上記以外にもインターンを通して多くの経験や学びがありました。これらは今後の私の人生の糧になると思います。
(6)国際機関でのインターンを考えている人へのアドバイス
今回のCTBTOでのインターン経験を通して分かったことは、日本は非常に恵まれていて、サポートしてくれる奨学金や国際機関でのインターンを後押ししてくれる人やプログラムが充実していということです。これらのチャンスをものにするためには主体的・積極的に行動し、多くの人を巻き込み協力してもらうことが大切だと思います。私自身も準備段階からインターン中まで、本当に多くの人に助けてもらいました。決して一人だけの力ではこのような経験を得ることはできませんでした。もし少しでもインターンに興味が沸いているのであれば、制度に関する情報収集や国連職員の方に実際にアポを取ってみるなど、すぐに行動に移してみることが良いと思います。
筆者のフェアウェル・パーティにて上司,同僚と(右から3人目が筆者)
-東京工業大学 博士課程1年 村本武司 さんへの
インタビュー
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部署:国際データセンター局ソフトウェアアプリケーション課
期間:2018年10月1日~2019年1月31日(4ヶ月間)
(1)CTBTOへの応募のきっかけは
修士1年の秋に大学のプログラムで、ウィーン所在の国際機関を訪問したことがきっかけです。国際原子力機関(International Atomic Energy Agency:IAEA)や包括的核実験禁止条約機関(Comprehensive Nuclear-Test-Ban Treaty Organization:CTBTO)といった国際機関職員の方と直接お話をしました。その時に各国の専門家がひとつの目標に向けて協力して仕事をすることに対して漠然とした憧れを抱き、将来自分も国際機関で仕事ができたらいいなと思うようになりました。その始めの一歩としてまずは国際機関でインターンシップをしようと決意しました。
数ある国際機関の中でCTBTOに応募した理由は、原子力を学ぶ中で核不拡散分野に興味を持ったことと,研究で数値解析を行っていたのでその経験がCTBTOでのデータ解析業務に活かせると考えたためです。さらにこれまでにCTBTOの技術系の部署でインターンをした日本人がいなかったことも理由のひとつです。先方との繋がりが無い状態では国際機関の一般の選考プロセスを経ることが必要となり,インターンの受け入れ可否決定の際にもともと繋がりがある場合と比べ大変ですが、将来国際機関に正規職員として応募する時に非常に役に立つ経験になると思いCTBTOに応募しました。
(2)CTBTOでの業務内容は
CTBTOは現在世界に約300箇所の監視施設を有しており,そのうちの80箇所が放射性核種観測所です。さらに放射性核種観測所の半数は希ガス検知のための観測所ともなっています。核実験や原子力事故の後には、キセノンの放射性同位体(135Xe、133Xe、131mXe、133mXe)がウランの崩壊によって生成されます。キセノンは希ガスであり、化学的安定性および長い半減期を有するため、キセノンを検出することは、核実験のモニタリングに適しています。
CTBTOのオフィスにて(筆者)
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CTBTOでは希ガス計測のためにβ-γ同時計測法という手法を用いて放射線量を測定しています。各地で得られた観測データは日々国際データセンター(International Data Center: IDC)に送られてきます。これらのデータは解析ソフトウェアなどでスペクトル解析をすることで最終的に放射性核種の濃度などに変換されます。現在用いられている解析ソフトのアルゴリズムは、煩雑な多項式を解くものであり計算コストの観点などからアルゴリズムに改善の余地があると考えられています。一方で行列演算を適用した解析手法も新たに考案されてきました。適切な式のモデル化と行列演算を併用することにより煩雑である計算処理を簡略化することができます。
以上より、私のインターンシップの目的は、行列演算を用いた解析手法がCTBTOの解析ソフトウェアに実装可能かどうかを明らかにすることでした。主な業務内容は上司がアルゴリズムを考え、それを基に私が計算プログラムを作りました。さらに作成したプログラムを用いてスペクトル解析を行い既存の解析データとの比較を行いました。使用したプログラミング言語はPythonです。
(3)CTBTOでの勤務で学んだことは
主に今回のインターンシップで学んだことは大きく3つあります。
1つ目は放射線測定に関する知識とプログラミング技術です。大学では主に数値流体解析や原子力安全に関する研究を行ってきました。従ってインターンを通してこれまでの専門以外の分野に知見を広げることができました。また私の配属部署はプログラマーも多く在籍していたので彼らから良いプログラムの書き方なども学ぶことができました。
2つ目は、国際的な場での仕事の進め方です。着任当初は、私がどのような人間で、何ができて何ができないのかが、語学の壁もあり上司にうまく伝えることができませんでした。そのような状況にも関わらず、短い期間を無駄にはできないと焦ってしまい、上司の考えに対して一方的に自分の意見を述べたりなどと、前のめりになってしまっていました。そのため、良いコミュニケーションが取れていなかったと思います。これではだめだと思い、毎日上司ところへ行き話しをし、そして上司に言われた仕事を正確にこなそうと務めました。すると、お互いのことを理解することができるようになり、信頼関係が築けたと思います。それからは色々な作業を任せてくれるようにもなり、生産性もぐっと上がりました。この経験より、国際的な場とはいえ、人と人との付き合いですから良い仕事をするためにはまずは信頼関係を築くことが大切であると学ぶことができました。
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3つ目は自身のネットワークを広げることができました。インターンシップ期間中はCTBTOだけではなく、IAEA等の国際機関で働く方々また日本の企業からこられている邦人職員の方との交流が多くあり、ネットワークが広がりました。出会った方々は皆様々な経験をしてこられていて、お話を伺うことで仕事のことや人生についてのことなど多くの学びがありました。
(4)語学の点で何か感じたことはありますか
私自身、海外に住むことは初めてであり、英語も得意というわけではなかったので、始めの頃はやはり苦労しました。日々の業務は数式を基にプログラムを書くことであったのでそこまで語学の能力は求められなかったのですが、月に何度かあるミーティングは特に苦労しました。そこでミーティングの前はあらかじめ資料やプレゼンテーションを準備するなど、伝え方を工夫することで意思疎通を図ることができるようになりました。またウィーン国際センター(Vienna International Centre: VIC)(※IAEAやCTBTOなどの国際機関事務局が入居する本部ビル)内で英会話の授業を受けることができたので、週2回受講しました。この英会話はVICで働く国際機関職員やそのご家族も受講できるので、授業を通して仕事仲間以外の繋がりもでき、私にとって良い息抜きの時間にもなっていました。今後も語学は継続的に勉強していきたいです。
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(5)今回のインターン経験を今後どのように活かすことができると思いますか
まずはプログラミングに関する知識や技術は今後大学で研究をする上で、データ処理の場面などですぐに役に立つと考えます。次に仕事に対する向き合い方ですが、これは国際的な場に限らず、研究や就職した時に役に立つのではないかと考えます。最後にインターンシップを通してできたネットワーク、そこで得た情報は今後の私のキャリアパスを考える上で活かすことができると考えます。勿論上記以外にもインターンを通して多くの経験や学びがありました。これらは今後の私の人生の糧になると思います。
(6)国際機関でのインターンを考えている人へのアドバイス
今回のCTBTOでのインターン経験を通して分かったことは、日本は非常に恵まれていて、サポートしてくれる奨学金や国際機関でのインターンを後押ししてくれる人やプログラムが充実していということです。これらのチャンスをものにするためには主体的・積極的に行動し、多くの人を巻き込み協力してもらうことが大切だと思います。私自身も準備段階からインターン中まで、本当に多くの人に助けてもらいました。決して一人だけの力ではこのような経験を得ることはできませんでした。もし少しでもインターンに興味が沸いているのであれば、制度に関する情報収集や国連職員の方に実際にアポを取ってみるなど、すぐに行動に移してみることが良いと思います。
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