原子力安全ワークショップの開催について

平成28年7月4日
皆様、
 
「原子力安全ワークショップ:現状と将来への課題」にお越しいただき、誠にありがとうございます。夏休みの準備もお忙しい中、セミナーにご参加賜り、日本代表部およびウィーン軍縮不拡散センターを代表し御礼を申し上げます。
 
今年は、福島第一原子力発電所の事故から5周年に当たります。それ以降、私たちは、事故から教訓を得て、原子力安全の強化に努めて参りました。日本では福島第一原子力発電所での対応は軌道に乗っており、現在の状況については後ほどビデオにてご覧いただけると思います。国際面でも、近年重要な成果があります。2013年にUNSCEARの報告書が公表されました。2015年にはIAEAの福島報告書の公表、原子力安全条約のウィーン宣言の採択、それにIAEA原子力安全行動計画の実施があり、これらは、IAEAの安全基準の見直しや、加盟各国への様々なレビュー・ミッションの派遣増加につながりました。
 
これらは皆、私たちが誇ってもよい成果ではありますが、自己満足に陥るべきではありません。私たちは、過去の成果に立脚し、さらに原子力安全を強化する新たな段階に来ているのです。現在、IAEAは、昨年の総会で採択された原子力安全決議に基づき、原子力安全に対する体系的なアプローチを採るための新たな手法に取り組んでいます。また、IAEAの中期計画も策定作業中であり、その中でも原子力安全は重要な柱となっています。今年の原子力安全決議に関する議論もまもなく始まります。また、発電、非発電の両分野で原子力技術の利用が世界的に拡大していますが、これは、原子力施設を安全に運転したり、放射性物質を取り扱うための能力の向上がより多くの国で求められていることを意味します。
 
皆様、
 
本日は多くの優れた講演者をお招きしておりますので、様々な観点から原子力安全について活発なご議論がなされることと期待しております。ここで本日の議論の成果を先取りするつもりはございませんが、議論のきっかけとして頂きたく、いくつかの点についてお話をさせていただければと思います。
 
第一に、原子力安全に係る国際的な法的枠組みの強化およびそれらの効果的な実施のための努力をさらに強める必要があります。新規の原発導入国が増加し、既存の原発利用国における原子炉の経年化の問題が持ち上がる中、原子力安全条約(CNS)の普遍化をいっそう進め、そのレビュープロセスを強化することが非常に重要になっています。CNSは、加盟各国が実施する原子力安全強化のための行動のピア・レビュー実施の基盤を提供しており、この点で言えばウィーン宣言は重要な文書であるといえましょう。すべての加盟国は、来年の第7回レビュー会議に向けた準備の中でより詳細な国別報告書を作成することが奨励されています。また、使用済燃料管理及び放射性廃棄物管理の安全に関する条約や、原子力損害の補完的補償に関する条約(CSC)といったその他の法的枠組みへより多くの国が参加することを促すことも重要です。
 
第二に、緊急時の準備と対応(EPR)は、福島第一原子力発電所の事故から得た教訓をフルに引き出し、国際協力を進めるべき重要な分野です。昨年新しい施設に移転した、福島のIAEA緊急時対応能力研修センターは、福島の経験を他国と共有するという点で重要な貢献をしてきているのを大変嬉しく思います。日本は、この取り組みをいっそう支援して参ります。
 
第三に、原子力技術の幅広い活用が原子力安全の分野においても多様な課題を生んでいる現状に鑑み、我々はこれらの問題に対して体系的かつ一体的な方法で取り組む必要があります。原子力安全は、単に原子力発電国の問題と言うだけではなく、非発電の分野で放射線源を利用する多くの国の問題でもあります。その意味では、原子力技術を利用する国々に対する能力構築支援が鍵を握っており、IAEAの技術協力プログラムは重要な役割を果たしています。日本は、IAEAや関連諸国と協議しながら平和利用イニシアティブ(PUI)を通じた技術協力プログラムの支援について積極的に検討して参ります。輸送の安全もまた重要な分野です。現在日本が議長国を務めている放射性物質の輸送に関する沿岸国・輸送国の非公式対話は信頼構築のプラットフォームとして機能しています。
 
最後になりますが、忘れてはならないのが、原子力安全に係るパブリック・コミュニケーションの重要性を過小評価すべきではないという点です。ソーシャル・ネットワークの発達したこの時代、情報は瞬時に伝わります。原子力安全に係る事態が発生した際、一般への効果的なコミュニケーションに失敗すれば、原子力安全に対する信頼は失われることになります。福島原発事故時の我々自身の経験は、データや情報を適時に適切な文脈において公表することが容易ではないことを示しています。その点では、パブリック・コミュニケーションにUNSCEARやIAEAが積極的に関与することはきわめて有益です。日本は、IAEA加盟国によるパブリック・コミュニケーション改善の取り組みを支援するUNSCAERやIAEAの能力向上について積極的に検討します。
 
 
皆様、
 
私たちウィーン・コミュニティは、原子力技術の重要性に鑑み、原子力安全の重要性を再確認し、原子力安全へのコミットメントを新たにし、よりよい原子力安全に向けた次のステップに関する共通のビジョンを共有すべきです。このワークショップが皆さま全員にとって実り多きものとなることを望みます。
 
ありがとうございました。