第60回国際原子力機関(IAEA)総会 日本政府代表演説
平成28年9月26日
議長,事務局長,御列席の皆様,
初めに,オスマン大使(マレーシア)が総会議長に選出されたことをお祝い申し上げます。また,セントルシア, セントビンセント及びグレナディーン諸島,ガンビア・イスラム共和国の新規加盟を歓迎します。
IAEAは60年間,原子力の平和的利用の促進と核不拡散の確保を通じてNPT体制を支えてきました。天野事務局長の力強いリーダーシップの下で,イランの核合意履行の監視・検証,北朝鮮の核実験及び核開発,「平和と開発のための原子力」のイニシアティブに象徴される開発課題への対応に積極的な役割を果たしています。こうした取組を継続するためにも,日本は,天野事務局長の再選を支持します。IAEA事務局が天野事務局長の下に結束し,その能力を最大限に発揮できるよう,全加盟国の支持を呼びかけます。
議長,
原子力は,安全性の確保を大前提に,安定供給性,経済効率性,温室効果ガス排出削減等の観点から重要なベースロード電源です。福島第一原発事故の教訓を踏まえ策定された新規制基準を満たした原発は,設置自治体の理解も得ながら,再稼働を進めていく方針です。
日本は,IAEAの厳格な保障措置の下,「利用目的のないプルトニウムは持たない」との原則を堅持し,本年8月に再稼働した伊方原発3号機を始め,プルサーマルの推進によりプルトニウムを着実に利用する考えです。同原則を堅持すべく,本年5月に行った再処理事業のガバナンスを強化する新たな法制度整備や毎年の詳細なプルトニウム管理状況の公表等を通じ,プルトニウム利用の一層の信頼性・透明性向上に取り組んでいきます。
議長,
東日本大震災から5年半が経過しました。福島第一原発では,廃炉・汚染水対策が着実に進み,除染・環境回復活動も進展し,避難区域も縮小しています。
本年4月,IAEAの協力を得て第1回福島第一廃炉国際フォーラムを開催しました。引き続き,世界に開かれた形で廃炉・汚染水対策を進め,今後も事故の教訓を国際社会に共有していきます。日本産食品の安全確保の取組も継続していきます。既に多くの国で日本産食品の輸入規制措置が撤廃されましたが,国際社会に対し,科学的根拠に基づいた輸入政策の実施を呼びかけます。
議長,
高水準の原子力安全の世界的な達成・維持は終わりなきプロセスです。
日本としては,本年1月にIAEAの総合規制評価サービスを受け入れ,そこで明らかになった課題への対応を進めています。
また,加盟国が,IAEA事務局が策定した行動計画に基づき,原子力安全を強化してきたことを評価します。日本は,行動計画等の実施から得られた教訓を分析し,今後の優先課題を特定する事務局の作業を支援していきます。
今日,世界で国際的な原子力協力が継続的に拡大しており,多国間の法的枠組みの重要性が高まっています。原子力安全関連条約の締約国間のコミュニケーション強化と条約の効率的な実施を求めるとともに,全ての国が国際的な原子力損害賠償の枠組みに参加することを期待します。また,原発の輸出を含む国際原子力協力における安全の確保も重要な課題となっています。原発導入国・輸出国の関係者を始め,国際協力に関わるあらゆるステークホルダーに対して原子力安全への配慮を呼びかけます。日本も,原発導入国の基盤整備,人材育成,公衆理解等の分野でIAEAの活動を今後も支援していきます。放射線の安全並びに緊急事態への準備及び対応に関する能力向上についても貢献していきます。また,技術発展を通じ,国際的な原子力安全に貢献していきます。
議長
日本は,IAEAの固有かつ専門的な技術が,医療,食料・農業,水資源管理等の様々な分野で世界各国の経済・社会の発展に貢献してきたことを評価します。日本は,IAEAがその比較優位を活かし,持続可能な開発目標の達成にも貢献することを期待します。
先月のTICADVI(第6回アフリカ開発会議)でも,感染症及び非感染症疾患に対処するためのIAEAの取組を支援すべきことが成果文書の中で言及されました。IAEAの技術協力活動は,広く国際社会から評価されていますが,主に開発分野の国際機関・民間団体とのパートナーシップを強化し,一層その効果が向上することを期待します。
日本も,IAEAの技術協力活動を支援してきました。昨年,平和的利用イニシアティブに対して向こう5年間で総額2,500万ドルの拠出を表明し,サイバースドルフ原子力応用研究所改修事業やジカ熱対策事業等を支援しています。また,知識や技術の伝達,キャパシティ・ビルディングにも力を入れています。
本年4月に発足した量子科学技術研究開発機構や本年10月に日本で開催予定のIAEA核融合エネルギー会議等を通じて,最先端の核融合エネルギー,量子,放射線技術を推進していきます。さらに,我が国が主導するアジア原子力フォーラムや国際的枠組みを通じて,研究開発と原子力の平和的利用分野の国際協力を進め,次世代を担う人材の育成に貢献していきます。
議長,
核セキュリティは,国際社会が取り組むべき重要な課題の一つです。本年4月には核セキュリティ・サミットが開催され,今後はIAEAが,国際的な核セキュリティの取組において中心的・調整的役割を担います。本年12月のIAEA核セキュリティ国際会議では,更に専門的な見地から議論が進められ,国際協力に係る具体的な取組が進展することを期待します。また,本年5月の核物質の防護に関する条約の改正の発効のために果たしたIAEAの取組を高く評価します。
日本も核セキュリティの更なる強化に向けて積極的に取り組んでいます。機微な核物質の最小化と適正な管理のため,本年3月,日本原子力研究開発機構の高速炉臨界実験装置の機微な核燃料の撤去完了や京都大学臨界集合体実験装置の低濃縮化を発表し,また,9月には個人の信頼性確認制度の導入を正式に決定しました。また,核セキュリティ分野の人材育成にも力を入れており,アジア地域で中心的役割を果たす日本原子力研究開発機構の核不拡散・核セキュリティ総合支援センターでは,過去5年間に約2,700名以上の研修生・専門家を受け入れました。本年は,日本がG7の議長国として核不拡散の議論を主導し,大量破壊兵器・物質の拡散に対するグローバル・パートナーシップ議長国を務め,明年6月には核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ全体会合を日本で開催する予定です。
議長,
IAEA保障措置は,核不拡散のための最重要手段であり,日本は,その強化・効率化に向けたIAEAの取組を引き続き支持します。国際的な核不拡散体制の強化のため,日本は,包括的保障措置協定及び追加議定書の普遍化を重視しており,本年は,ミャンマーでのセミナー開催やニジェールでのIAEA主催セミナーの支援を行いました。今後も,昨年以降,日本が議長国を務めるアジア太平洋保障措置ネットワークや毎年日本で開催しているアジア不拡散協議等を通じて,特にアジア地域の不拡散の強化に取り組んでいきます。
議長,
9月9日,北朝鮮は5回目となる核実験を行いました。北朝鮮の度重なる核実験と弾道ミサイル発射により,国際社会全体に対する脅威は,従来とは異なるレベルに高まっています。また,北朝鮮による核・ミサイルは,国際的な核不拡散体制への重大な挑戦であり,断じて容認できず,日本はこれを最も強い表現で非難します。北朝鮮に対し,更なる挑発行動を行わないこと,関連安保理決議及び2005年の六者会合共同声明を完全に実施すること,NPT及びIAEA保障措置を履行することを強く求めます。国際社会が一致して北朝鮮に対して具体的な措置をとることが重要であり,この観点からも,この問題にIAEAが引き続き深く関与することを支持します。
日本は,イランの核合意が着実に履行されていることを歓迎し,継続的な履行を強く期待します。核合意履行の監視・検証においてIAEAが果たす役割は極めて重要であり,日本は,今後とも,核合意の履行を積極的に支援していきます。
議長,
日本は,IAEAの原加盟国として,その創設以来,理事国を務めてきた責任を改めて自覚し,先進技術を有し,原子力の恩恵を享受するリーディング・カントリーとして,原子力の平和的利用の促進及び核不拡散の強化に一層貢献していく決意を改めて表明いたします。
御清聴ありがとうございました。
初めに,オスマン大使(マレーシア)が総会議長に選出されたことをお祝い申し上げます。また,セントルシア, セントビンセント及びグレナディーン諸島,ガンビア・イスラム共和国の新規加盟を歓迎します。
IAEAは60年間,原子力の平和的利用の促進と核不拡散の確保を通じてNPT体制を支えてきました。天野事務局長の力強いリーダーシップの下で,イランの核合意履行の監視・検証,北朝鮮の核実験及び核開発,「平和と開発のための原子力」のイニシアティブに象徴される開発課題への対応に積極的な役割を果たしています。こうした取組を継続するためにも,日本は,天野事務局長の再選を支持します。IAEA事務局が天野事務局長の下に結束し,その能力を最大限に発揮できるよう,全加盟国の支持を呼びかけます。
議長,
原子力は,安全性の確保を大前提に,安定供給性,経済効率性,温室効果ガス排出削減等の観点から重要なベースロード電源です。福島第一原発事故の教訓を踏まえ策定された新規制基準を満たした原発は,設置自治体の理解も得ながら,再稼働を進めていく方針です。
日本は,IAEAの厳格な保障措置の下,「利用目的のないプルトニウムは持たない」との原則を堅持し,本年8月に再稼働した伊方原発3号機を始め,プルサーマルの推進によりプルトニウムを着実に利用する考えです。同原則を堅持すべく,本年5月に行った再処理事業のガバナンスを強化する新たな法制度整備や毎年の詳細なプルトニウム管理状況の公表等を通じ,プルトニウム利用の一層の信頼性・透明性向上に取り組んでいきます。
議長,
東日本大震災から5年半が経過しました。福島第一原発では,廃炉・汚染水対策が着実に進み,除染・環境回復活動も進展し,避難区域も縮小しています。
本年4月,IAEAの協力を得て第1回福島第一廃炉国際フォーラムを開催しました。引き続き,世界に開かれた形で廃炉・汚染水対策を進め,今後も事故の教訓を国際社会に共有していきます。日本産食品の安全確保の取組も継続していきます。既に多くの国で日本産食品の輸入規制措置が撤廃されましたが,国際社会に対し,科学的根拠に基づいた輸入政策の実施を呼びかけます。
議長,
高水準の原子力安全の世界的な達成・維持は終わりなきプロセスです。
日本としては,本年1月にIAEAの総合規制評価サービスを受け入れ,そこで明らかになった課題への対応を進めています。
また,加盟国が,IAEA事務局が策定した行動計画に基づき,原子力安全を強化してきたことを評価します。日本は,行動計画等の実施から得られた教訓を分析し,今後の優先課題を特定する事務局の作業を支援していきます。
今日,世界で国際的な原子力協力が継続的に拡大しており,多国間の法的枠組みの重要性が高まっています。原子力安全関連条約の締約国間のコミュニケーション強化と条約の効率的な実施を求めるとともに,全ての国が国際的な原子力損害賠償の枠組みに参加することを期待します。また,原発の輸出を含む国際原子力協力における安全の確保も重要な課題となっています。原発導入国・輸出国の関係者を始め,国際協力に関わるあらゆるステークホルダーに対して原子力安全への配慮を呼びかけます。日本も,原発導入国の基盤整備,人材育成,公衆理解等の分野でIAEAの活動を今後も支援していきます。放射線の安全並びに緊急事態への準備及び対応に関する能力向上についても貢献していきます。また,技術発展を通じ,国際的な原子力安全に貢献していきます。
議長
日本は,IAEAの固有かつ専門的な技術が,医療,食料・農業,水資源管理等の様々な分野で世界各国の経済・社会の発展に貢献してきたことを評価します。日本は,IAEAがその比較優位を活かし,持続可能な開発目標の達成にも貢献することを期待します。
先月のTICADVI(第6回アフリカ開発会議)でも,感染症及び非感染症疾患に対処するためのIAEAの取組を支援すべきことが成果文書の中で言及されました。IAEAの技術協力活動は,広く国際社会から評価されていますが,主に開発分野の国際機関・民間団体とのパートナーシップを強化し,一層その効果が向上することを期待します。
日本も,IAEAの技術協力活動を支援してきました。昨年,平和的利用イニシアティブに対して向こう5年間で総額2,500万ドルの拠出を表明し,サイバースドルフ原子力応用研究所改修事業やジカ熱対策事業等を支援しています。また,知識や技術の伝達,キャパシティ・ビルディングにも力を入れています。
本年4月に発足した量子科学技術研究開発機構や本年10月に日本で開催予定のIAEA核融合エネルギー会議等を通じて,最先端の核融合エネルギー,量子,放射線技術を推進していきます。さらに,我が国が主導するアジア原子力フォーラムや国際的枠組みを通じて,研究開発と原子力の平和的利用分野の国際協力を進め,次世代を担う人材の育成に貢献していきます。
議長,
核セキュリティは,国際社会が取り組むべき重要な課題の一つです。本年4月には核セキュリティ・サミットが開催され,今後はIAEAが,国際的な核セキュリティの取組において中心的・調整的役割を担います。本年12月のIAEA核セキュリティ国際会議では,更に専門的な見地から議論が進められ,国際協力に係る具体的な取組が進展することを期待します。また,本年5月の核物質の防護に関する条約の改正の発効のために果たしたIAEAの取組を高く評価します。
日本も核セキュリティの更なる強化に向けて積極的に取り組んでいます。機微な核物質の最小化と適正な管理のため,本年3月,日本原子力研究開発機構の高速炉臨界実験装置の機微な核燃料の撤去完了や京都大学臨界集合体実験装置の低濃縮化を発表し,また,9月には個人の信頼性確認制度の導入を正式に決定しました。また,核セキュリティ分野の人材育成にも力を入れており,アジア地域で中心的役割を果たす日本原子力研究開発機構の核不拡散・核セキュリティ総合支援センターでは,過去5年間に約2,700名以上の研修生・専門家を受け入れました。本年は,日本がG7の議長国として核不拡散の議論を主導し,大量破壊兵器・物質の拡散に対するグローバル・パートナーシップ議長国を務め,明年6月には核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ全体会合を日本で開催する予定です。
議長,
IAEA保障措置は,核不拡散のための最重要手段であり,日本は,その強化・効率化に向けたIAEAの取組を引き続き支持します。国際的な核不拡散体制の強化のため,日本は,包括的保障措置協定及び追加議定書の普遍化を重視しており,本年は,ミャンマーでのセミナー開催やニジェールでのIAEA主催セミナーの支援を行いました。今後も,昨年以降,日本が議長国を務めるアジア太平洋保障措置ネットワークや毎年日本で開催しているアジア不拡散協議等を通じて,特にアジア地域の不拡散の強化に取り組んでいきます。
議長,
9月9日,北朝鮮は5回目となる核実験を行いました。北朝鮮の度重なる核実験と弾道ミサイル発射により,国際社会全体に対する脅威は,従来とは異なるレベルに高まっています。また,北朝鮮による核・ミサイルは,国際的な核不拡散体制への重大な挑戦であり,断じて容認できず,日本はこれを最も強い表現で非難します。北朝鮮に対し,更なる挑発行動を行わないこと,関連安保理決議及び2005年の六者会合共同声明を完全に実施すること,NPT及びIAEA保障措置を履行することを強く求めます。国際社会が一致して北朝鮮に対して具体的な措置をとることが重要であり,この観点からも,この問題にIAEAが引き続き深く関与することを支持します。
日本は,イランの核合意が着実に履行されていることを歓迎し,継続的な履行を強く期待します。核合意履行の監視・検証においてIAEAが果たす役割は極めて重要であり,日本は,今後とも,核合意の履行を積極的に支援していきます。
議長,
日本は,IAEAの原加盟国として,その創設以来,理事国を務めてきた責任を改めて自覚し,先進技術を有し,原子力の恩恵を享受するリーディング・カントリーとして,原子力の平和的利用の促進及び核不拡散の強化に一層貢献していく決意を改めて表明いたします。
御清聴ありがとうございました。