第58回国際原子力機関(IAEA)総会 日本政府代表演説

平成26年9月22日
議長,事務局長,ご列席の皆様,
 
まず初めに,議長閣下が第58回IAEA総会議長に選出されたことをお祝い申し上げます。日本政府は,コモロ連合,ジブチ共和国,ガイアナ共和国,及びバヌアツ共和国のIAEA新規加盟を歓迎します。
 
我が国は,原子力の平和利用の促進とIAEA保障措置強化を通じた不拡散確保といったIAEAの活動を高く評価します。こうした活動を行うにあたっての天野事務局長のリーダーシップと事務局の絶え間ない努力を賞賛すると共に,引き続き,できる限りの支援を行っていく考えです。
 
本年4月,日本政府は,日本の中長期的なエネルギー政策の方針を定めた第4次エネルギー基本計画を閣議決定しました。この政策の中で,原子力は重要なベースロード電源と位置づけられております。この基本計画に基づき,我が国は,確保していく原子力発電の規模を見極めていきます。その際,我が国の今後のエネルギー制約を踏まえ,安定供給,コスト低減,温暖化対策,原子力技術・人材の維持等の観点から,検討を行っていく考えです。現在停止している原子力発電所については,原子力規制委員会が新しい安全基準に適合すると認めた場合には,再稼働を進めていきます。この度、川内原発については,原子力規制委員会によって,再稼働に求められる安全性が確保されることが確認されました。したがって政府としては,エネルギー基本計画に基づき、川内原発の再稼働を進めることといたしております。その際,立地自治体等関係者の理解と協力を得るよう,取り組んでいきます。
 
また,我が国は,引き続き,利用目的のないプルトニウムは持たないとの政策を堅持し,需給バランスを考慮に入れつつ,プルトニウムの適切な管理・利用を行っていきます。
 
これまで我が国の原子力活動の幅広い分野で重要な役割を果たしてきた原子力委員会は,本年,原子力平和利用の確保にかかる政策により重点を置くべく,また,そのための政府内のより良い調整が行われるよう,改編されました。
 
我が国は,福島第一原発事故の経験から得られた教訓に基づき,安全性を高めた原子力技術を引き続き国際社会と共有すると共に,原子力発電を進める諸国のために,人材育成・制度整備の面で支援を強化していきます。
 
福島第一原発事故への対応は引き続き重要な課題です。
 
我が国は,昨年9月,福島第一原発における汚染水問題の根本的な解決のための基本方針を策定し,その方針に沿って,一歩一歩着実に対策を実施してきました。その解決にあたっては,国内外から780件もの技術提案をいただき,それらを反映する形で予防的・重層的な汚染水対策をとりまとめ,地下水バイパスによる地下水の海洋への放出等,準備が整ったものから順次対策を実施しています。昨年の総会時にはまだ方針しか定まっていなかったところから,今年はこのように具体的な対策をいくつも講じるに至りました。来年は,それらの対策がより一層進展し,その進捗状況について皆様の前で報告ができるよう,政府一丸となって引き続き取り組んでまいります。
 
汚染水問題のみならず,廃炉・除染の取組も進展しています。廃炉に関しては,4号機使用済み燃料プールからの燃料取り出しを現在実施中であり,その80パーセント以上が既に取り出される等,順調に進捗しており,年内の取り出し完了を予定しています。除染に関しては,その進展の結果,本年4月,震災から初めて,いくつかの避難指示区域が解除されるに至りました。住民の帰還にあたっては,リスクコミュニケーションを含む,公衆とのコミュニケーションの強化が重要との認識のもと,様々な施策に取り組んでいます。
 
国内への情報発信のみならず,国際的な情報発信の強化も引き続き重要です。海洋モニタリングの結果を日々公表するのみならず,水産品を含む食品のモニタリング結果も毎週公表し,情報の透明性に努めています。廃炉・汚染水対策やモニタリングといった情報を含め,日本政府は,福島第一原発事故に関わる情報を包括的にとりまとめ,IAEAの協力を得て,定期的にIAEAホームページを通じて発信しています。
 
食品のモニタリングについては,情報提供のみならず,その体制を強化し,食の安全性を確保していることは言うまでもありません。実際,水産品を始めとする食品輸入規制が,オーストラリア,EUといったいくつかの国・地域で緩和されました。更に,水産品の安全については,本年5月,震災発生以後の経緯を網羅した報告書を作成し,これを各国に提供しています。
 
このような取組が進展する一方で,福島第一原発対応は依然として,前例のない困難な事業であり,国内外の技術,知見,経験を結集してこれにあたる必要があります。昨年はIAEAから廃炉,除染の双方についてミッションを派遣していただき,貴重な提言をいただきました。この場をお借りして,IAEA並びに各国,各機関のご協力に感謝申し上げます。今後もIAEAの廃炉ミッションを受け入れるとともに,IAEA及び国際社会と引き続き協働してまいります。
 
更に,我が国は,来年4月,日本原子力研究開発機構の中に,産学官の英知を結集し,廃止措置に関する先進技術の研究開発や人材育成を推進する観点から,同機構のモックアップ試験施設や放射性物質の分析・研究施設も活用した「廃炉国際共同研究センター」を設置する予定です。同センターは世界で実施されている研究開発の成果を共有する基盤になるとともに,世界に向けた情報発信にも寄与するものとなることを期待しております。
 
福島第一原発事故の経験と教訓を世界と共有し,国際的な原子力安全の強化に努めることは我が国の責務です。我が国は2011年の総会で採択されたIAEA原子力安全行動計画を着実に実施しています。具体的には,国際専門家会合に専門家を派遣して知見を共有し,国内規制当局のレビューである総合規制評価サービスミッションの2015年末を目途として受け入れを表明するなど,その実施に努めています。また,行動計画の12の柱の一つである国際的な法的枠組みの強化についても,我が国は「原子力損害の補完的補償に関する条約」締結の意思を表明しており,これが原子力損害賠償や福島第一原発対応に係る国際的枠組み構築を促進するものと確信しております。また,IAEAが現在策定している福島報告書に対しても,我が国としてできる限りの貢献をする所存です。
 
我が国は,核セキュリティ強化のために,国内的にも国際的にも,引き続き貢献していきます。我が国は,本年6月27日,「核物質防護条約の改正」の受諾書を寄託しました。また,来年2月には,IAEA国際核物質防護諮問サービスミッションも受け入れます。
 
昨年,日本の東海村にある「核不拡散・核セキュリティ総合支援センター」,「ISCN」は,アジア諸国等の専門家,約350名に対して,原子力平和利用に関するセミナーや核セキュリティに関するトレーニング等を実施しました。ISCNによるこうしたトレーニングなどの受講者は,2010年の設立以来,合計1,200名に上ります。こうしたトレーニング活動を行う上でIAEAとの関係を強化するために,ISCNは,2013年9月にIAEAとの間で実施取決めを結びました。ISCNは,核鑑識技術などの研究開発活動にも引き続き取り組みます。 我が国は,今後とも,IAEAや関係国と連携して,国際的な核セキュリティ強化のために更なる努力を行ってまいります。
 
我が国は,IAEA保障措置システムの強化・効率化を引き続き支持していきます。この観点から,2013年に包括的保障措置協定締結国が対前年比で2カ国,追加議定書締結国が4カ国増加したことを歓迎します。
 
北朝鮮による核開発・ミサイル開発の継続は,東アジア地域のみならず国際社会全体に対する深刻な脅威であり,我が国はこれを強く非難します。
 
北朝鮮は最近,国連安保理決議に明確に違反する形で,弾道ミサイルの発射を繰り返しました。北朝鮮による核実験や弾道ミサイルの発射といった挑発的行為は,NPTを中心とする国際的不拡散体制に対する重大な挑戦であり,到底受け入れられません。我が国は,北朝鮮に対し,更なる挑発行為を行わないこと,完全で検証可能かつ不可逆的な非核化に向けて具体的措置をとり,全ての関連活動を停止すること,2005年の六者会合共同声明及び関連安保理決議を完全に実施すること,NPT及びIAEA保障措置を履行することを求めます。また,この問題にIAEAが引き続き関与することを支持します。
 
イランの核問題については,最終的かつ包括的な問題解決を追求するEU3+3の努力を全面的に支持します。また,この問題におけるIAEAの役割,とりわけ,イランの核計画の全てが平和的性格のものであることを制度的に担保するための検証・監視活動,及び軍事的側面の可能性を含む全ての未解決の問題の解明におけるIAEAの取組を支持します。我が国は,イランの核問題解決に向けたIAEAの取組を支援するため,計42万ユーロをIAEAによる関連活動経費として拠出いたしました。
 
NPTの三本柱である原子力の平和利用は,我が国が重視し,そして貢献できる分野です。我が国は,全てのIAEA加盟国,特に発展途上国が,原子力科学・技術の平和利用による恩恵を継続的に享受するという観点から,インフラ整備や広報を含む原子力発電利用,並びに,健康,食糧・農業,水資源管理,環境を含む非発電利用に関するIAEAの活動を支援しています。
 
特に,いわゆるReNuALプロジェクトは,加盟国全体にとっての利益となるものであり,全ての加盟国が協力して支援していくことを呼びかけたいと思います。我が国としても,既に昨年50万ユーロを拠出したところですが,追加の拠出を前向きに検討していきます。
 
こうした活動を支援するため,我が国はIAEAの技術協力基金への継続的な拠出に加え,「平和利用イニシアティブ」を通じた支援を重視しており,過去3年の拠出に引き続き,本年も同イニシアティブに対して200万ドル以上を拠出いたしました。また,我が国は原子力のインフラ整備,人材育成,広報の分野におけるIAEAの活動を支援するために,たとえば,1990年から25年間,継続して原子力広報に関する特別拠出金を拠出してきています。 人材育成への貢献として、2012年からは原子力エネルギーマネジメントスクールを毎年,我が国で開催しており,今後ともこれを継続していく考えです。
 
我が国は,今後とも,保障措置/不拡散,原子力安全,核セキュリティを確保しながら原子力活動を継続していくと共に,原子力の平和利用促進のために貢献していく決意です。
 
ご静聴ありがとうございました。