国際機関職員インタビュー : 古澤 智子 IAEA技術協力局欧州部プログラムマネージメントオフィサー

令和2年4月28日
現在のお仕事についてお聞かせください。
 
 
技術協力局のヨーロッパ部で、ヨーロッパと中央アジア地域の加盟国の支援をしています。IAEAの原子力エネルギー局、原子力安全・核セキュリティー局、原子核科学応用局などには、それぞれの分野の専門家が集まっており、その専門家たちとチームを組んで、原子力や放射線を安全、効果的に利用するためのプロジェクトの運営管理をしています。プロジェクトには、食料・農業(放射線照射による害虫防除や品種改良等)、保健・医療(がんの放射線治療等)、文化(放射線または量子ビーム照射による文化財の分析と殺菌)、環境保全 (空気、土壌の分析)、水資源管理(水に含まれる同位体による地下水の調査)、工業(材料の耐熱、硬化)、原子力発電(エネルギー計画・分析、人材育成、安全管理)など様々な分野があり、加盟国のSDGs達成のため貢献しています。
また、IAEAはこれまで免疫学・分子イメージ及び原子力関連技術を使用して、人や動物の疾病の診断とモニタリングの支援をしてきたことから、最近では、Covid-19の対応支援として、PCR検査機を加盟国に供与しました。



 
The University Institute for Positron Emission Tomography
のオープニング
2017年5月、スコピエ(北マケドニア)

これまでのご経歴とIAEAにご関心を持たれたきっかけを教えてください。

日本の大学で国際関係学を専攻し卒業後、在トルコ日本大使館で派遣員として勤務し、そしてアメリカの大学院で公共政策修士を取得しました。その後は、UNDP(国連開発プログラム)に勤務しました。ニューヨーク本部にて約2年間日本政府基金の管理アシスタント(コンサルタント)をしました。その後ガーナ事務所で3年間(UNV/コンサルタント)、バンコクアジア太平洋地域事務所で6年間(正規職員)、気候変動、環境、エネルギー、化学物質・廃棄物処理のプロジェクトを担当しました。UNDPの仕事はダイナミックでとても面白かったのですが、4・5年過ぎたころから、「何か新しいことをやりたい」、「別の国連機関を見てみたい」という思いが強くなり、ちょうどバンコク時代の同僚がIAEAに移ったという話を聞いて、IAEAに興味を持つようになりました。また、2011年3月に東日本大震災があり、一日本人として何ができるかと考え、また原子力とは何かを学びたいと思うようになりました。
IAEAについて調べてみると、IAEAも技術協力を行っており、SDGsに貢献していることを知り、私でもできるのではないかと思い、技術協力局のポストの空席公募に応募し、採用されました。



 
放射性トレーサーのトレーニング見学
2019年12月、IAEAサイバースドルフ研究所(オーストリア)

IAEAでの勤務の魅力とは何でしょうか。

IAEAは、核査察だけではなく、原子力や放射線の平和的利用を推進し、多くの国を支援しています。
原子力や放射線の利用は、医療品の滅菌、食品の殺菌などをはじめ、私たちの日々の生活に欠かせないものです。放射線グラフト(接ぎ木)重合法により新たに開発された材料を用いた、天然ガスから二酸化炭素の除去やバイオ燃料生産の加速、高エネルギー電子線照射による有害化学物質の無害化、下水や工業水の処理、排煙の処理、汚泥の浄化、またナノ粒子の開発と医療・産業分野への応用など、最新の研究を常に目の当たりにすることができ、IAEAの仕事を通して、世界各国が直面するいろいろな課題の解決に貢献することができると思います。
国連機関では、世界各国出身の様々なバックグラウンドを持った人々が働いているので、毎日発見があり、学ぶことがとても多いです。英語にアクセントがあったり、英語が完璧でなくても、コミュニケーションをとって、皆が一丸となって世界の国々の平和とより良い発展に向かって仕事をしているというところが魅力であり、私が国連で働き続ける理由でもあります。



古澤さんは実際に仕事と育児を両立されていますが、両立環境はいかがですか。

国連機関ではワークライフバランスがしっかりしていて、ジェンダーバランスを推進しているので、女性、育児、家族に対する支援・制度が整っており、とても働きやすい環境です。
私の夫はウィーンではフリーランスで、家で仕事をしているので、今は小学生の息子の送り迎えをしてくれています。IAEAがあるVienna International Centre(VIC)には、敷地内にウィーン市立の幼稚園があり、去年までは息子はその幼稚園に通っていました。夜6時まで開いており、仕事が残っている時には、息子を幼稚園から引き取って、オフィスで仕事を続けることもありました。私も時々そうしていますが、夕方や子どもが休み中に子どもをオフィスに連れてきて仕事をしている同僚も多くいます。
UNDPバンコク勤務の際は、夫は別の国で仕事をしていました。息子が1歳過ぎまでは、母に同居してもらい、息子が1歳過ぎたころからベビーシッターを雇っていました。出産後4か月で復職し、オフィスの併設の授乳室で授乳時間を取り、息子が1歳になるまでは勤務時間を2時間短縮して勤務していました。


 
文化財保護のワークショップ
2019年11月、Mogosoaia Palace culture centre(ルーマニア)

これからIAEA、国際機関でのお仕事を目指す方々へのメッセージをお願いします。

IAEAには、原子力分野の専門的なポストだけではなく、私のいる技術協力部門のほか、財務、人事といった各機関共通の分野も含め多種多様なポストがあります。必ずしも原子力のバックグラウンドがなくとも活躍できる可能性が多くあるので、是非定期的に空席公募情報をチェックしてみて欲しいです。
選考に関するアドバイスとして、IAEAでは、選考段階でSONRUというビデオ面接(注:画面上に表示される質問につき、カメラに向かって回答。回答の模様は録画され選考資料となる)を導入しています。SONRUは独特の形式ゆえ事前に十分に練習を積んでおくことがうまく対応する秘訣です。その後の対人のパネル面接では、応募ポストのTORに沿っていくつか質問を予測しておき、それぞれの質問に、成功例、失敗例を2、3づつ準備しておくと良いです。
また、回答に当たっては、Situation、Task、Action、Result(STAR)それぞれについて、失敗例についてもLesson Learnt(STAR + L)を加え、何を学んで、次回はどのように対処したか/するかを、“We”ではなく“I”の視点で、2・3分で答える練習をしておくと良いと思います。TORと今までの仕事の共通点を強調し、すぐに仕事を始めても問題ない、チームに入り一緒に仕事をしていけるという印象を与えられると良いです。

国連機関はドナーの拠出金で成り立っているため、多くの国連機関は、1-3年ごとの契約になっていると思います。私がUNDPに居た頃は、私も多くの同僚も常に次の仕事探しをしていました。UNDPやいくつかの国連機関では、最近は、P(専門職)ポストが大分少なくなり、コンサルタントの比重が大きくなってきており、エントリーポイントとしてコンサルタントのポストを見てみるのも良いと思います。
いろいろな場所で多様な経験を積んでおくことは、将来国連機関で働く際に強みになりますし、国連以外であっても仕事の選択肢が広がるのではないかと思います。また、多くの人に話を聞いたり、アドバイスをもらったりすることで、ネットワークが広がり、新たな道が開けてくることもあると思います。