国際機関職員インタビュー : 奥村 由季子 UNOOSA委員会・政策・法務課 宇宙法務・政務官補
令和2年5月4日
宇宙法を専攻したきっかけと国連宇宙部
私は宇宙を舞台にしたハリウッド映画(遥か銀河の彼方で戦ったりする例のあれ)のコアなファンです。法律を勉強していた学生時代、私にとっての楽しみは、舞浜にあるネズミの国でその映画のアトラクションに乗ることでした。ある時、アトラクションの宇宙船に乗っていた私は「もしこの宇宙船ツアーが現実になったら法律的な問題はあるのかな」と疑問に感じ、色々と調べることにしました。ちょうど大学で宇宙法という分野の授業が始まっていたところで、気がつけば宇宙法の虜となることに…。大学では博士課程まで進んで宇宙法を学び、今では国連の宇宙部という部署で働いています。人生、何がきっかけになるか分からないものですね。
現在私が勤務しているのはUnited Nations Office for Outer Space Affairs(UNOOSA)というウィーンにある国連事務局の一部署です。UNOOSAには様々な仕事がありますが、主に私が担当しているのは、宇宙空間の平和利用などについて話し合う国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)の事務局業務です。国連というと一般的には平和維持活動や人道支援活動を行うイメージがあるかもしれませんが、私たちの部署は多くの国の代表が集まって活発に行われる宇宙に関する議論を事務局としてサポートするという役回りです。
最近はSpace Law for New Space Actorsという人材育成の支援活動も担当しています。宇宙分野における新興国では宇宙に関連する国内法が未整備な国も多く、新たに法整備が必要な国の政府関係者などに国際宇宙法の基本事項や知見を共有するものです。宇宙法の重要性をさらに世界へ広めるとともに、各国が宇宙の平和利用という同じ目標に向かって進むお手伝いができるのは、私にとっては夢のような仕事だと言えます。
一方で、担当者としての大きなプレッシャーもあります。国連で新たな事業をはじめるということは、各国にその重要性を理解してもらい、資金を拠出してもらわねばなりません。本当に必要な事業なのか、各国にとってのメリットは何なのか、様々な事を理解してもらうため、時にはシビアな交渉が続く日もあります。それでも、立ち上げから運用までプロジェクトに携われることへの喜びを感じながら、一歩ずつ事業を前へ進めているところです。
国連を目指す人たちへ 語学と専門性のブラッシュアップを
ここからは国連など国際機関職員を目指す方々へ、自分の経験からお伝えできることを少しお話させて下さい。国連で働くということは英語などの国連公用語を業務で「使う」ということです。「使う」というのは、時には議論に割って入って自分の意見を主張したり、各国の優秀な外交官たちと白熱した交渉をしたり、非常に高度な英語力を自在に駆使するという意味です。特に国連における英語に関する難しさは、皆がネイティブではないということです。国や人によって発音もそれぞれ異なり、アクセントによっては聞き取りにくい英語も多いです。
チェコの大学院にて宇宙法の講義を担当
(カレル大学) |
こうしたことから日本人の場合は帰国子女や留学経験者が有利になりがちです。国連には各国からインターンが集まりますが、彼らを見ていると英語に自信のない人は日常会話にも消極的になりがちです。これでは英語を「使う」どころか業務を円滑に進めるためのコミュニケーションすら取れていないことになります。
もちろん、日本人の英語もネイティブ側からすれば聞き取りにくい英語の一つに入ってしまいます。円滑なコミュニケーションや高度な交渉を実現するためにも、特に日本人が苦手なスピーキングは早い段階から意識して訓練をすることをおすすめします。私は未だに笑いのツボを外しがちですが、コーヒーを飲みながら気の利いたジョークが言えるようになるといいかもしれませんね。
英語だけでなく専門性の充実も国連職員を目指す上では非常に重要です。一概には言えませんが、国連で仕事の公募が出た場合、世界中から300人以上の応募がなされることが多いです。そして、その多くは学位と経験の有無でまず足切りにあってしまいます。国連の公募ページを見たことがある方はご存知かと思いますが、応募要件の学位や経験は細かく専門性が問われます。たとえば私のポストで言えば、仮に一般的な国際法の知識や経験があったとしても「宇宙法の知識」「宇宙法を業務として活かした経験」がなければ中々選考には残らないと思います。つまり、ただ漠然と「国連で働きたい!」という思いだけでは簡単に仕事は見つからないのです。
大切なのは修士で専門性を極め、その専門性が活かせる職場を探すことです。国連では学位と経験が一致していることが応募の際、非常に重要です。残念ながら日本企業では学位と仕事内容が必ずしもリンクしているとは限りません。例えば工学部卒の人が人事をやっていたり、文学部卒の人が経理をやっていたりということはよくあることだと思います。ところがそうした経験では国連のポストに応募できないということも起きてしまうのです。
国際会議にて宇宙法に関する人材育成について講演
(イスタンブールでの国連宇宙法政策会議) |
国連では各機関で常にインターンを募集しています。インターンとして働ける最短期間は2ヶ月で、最長は6ヶ月となっており、インターンに応募できるのは学部生の最終年、修士課程・博士課程に在籍中、または卒業後1年以内の人です(注:他の国際機関では条件が異なる場合があります)。ただし、国連では修士号以上を取得していないと勤務ができないため、個人的には修士号を取得した後でインターンをすることをおすすめします。
他国に比べて日本人のインターンが少ないのは残念ですが、国連のインターンは無給のため、滞在費を含めた経済的負担が大きく中々手が出ないのだろうとは思います。ただ、国連以外の国際機関の中には手当を出しているところもあるほか、各大学や政府の奨学金制度などを活用している人たちもたくさんいます。もし興味があるのであれば様々な制度を探してみてください。
ちなみに国連のインターンは通常の国連正規職員ポストと同じUN Careersというサイトで公募を行っています。国連の公募に応募するには推薦者が必要な上、国連独特の履歴書のフォーマットなどもあり、準備にかなり時間がかかります。興味のある方は早めにアカウントを作成し、履歴書をシステム内に作っておくことをおすすめします。また、応募する前には必ずネイティブチェックを受けること、そして国連の履歴書スタイルを知っている人にアドバイスを貰うことも大切です。
オクトーバーフェストにてヨーロッパの“なまはげ”と
(ウィーン) |
仕事とプライベートの両立について
最後に、仕事とプライベートについても少し触れておきます。国連での業務は忙しいですが、自分の仕事さえ締め切りまでに終わらせていれば、早めに帰ろうと休みを取ろうと文句を言われることはありません。むしろ日本式で休みを取らずに働いていると、上司からなぜ休まないのかと心配されます。
私は着任後に新たに修士号を取ることに決め、働きながらウィーンの大学に2年間通いました。授業がある日は少し早めに仕事を切り上げていましたが、上司も同僚も嫌な顔ひとつせず応援してくれました。ウィーンの国際機関で働く日本人はみなさん、週末や休みを利用してヨーロッパを旅行したり、新たな習い事を始めたりと、日本で働いていたときよりも自由な時間を有効に使われています。仕事でもプライベートでも、何か新しいことにチャレンジしたい方には国際機関は非常に恵まれた環境だと思います。