IAEAインターン体験記:鈴木明子さんへのインタビュー

令和2年6月9日





鈴木さんのこれまでのご経歴についてお聞かせください。
 
 京都大学大学院工学研究科建築学の修士課程を修了後、大学時代から共同研究を通してご縁があったイタリア・ナポリフェデリコ二世大学に、地震リスク分野における博士号取得のため約3年間留学しました。日本の大学では地震の被害を受けた建物を対象に、センシング技術を用いた構造物の健全度評価手法に関する研究をしており、さらにその結果を被災後の事業継続計画やリスクマネジメント等における意思決定に反映させるため、イタリアでは建築物の確率論的地震リスク評価に関する研究に従事しておりました。



国際機関にご関心を持つようになったきっかけは何ですか?
 
 海外で働く両親の友人の影響もあり、高校時代から、国際機関で働くことに対して漠然と憧れを抱いていました。大学時代は国際的に通用する専門性を極めようと研究に没頭しておりましたが、イタリアの大学院を修了し、日本に帰国する前に一度国際機関での業務を経験してみたいとの想いが膨らみ、行動に出ようと決意しました。偶然、当時関与していた研究プロジェクトの関係でウィーンに数ヶ月滞在していたのですが、ウィーンが国際原子力機関(IAEA)をはじめとする国際機関の拠点であることを思い出し、在ウィーン国際機関日本政府代表部にメールを送ったことが大きなきっかけです。そこで、IAEAの中でも私の専門分野と関連性が高い、地震等の外的事象から原子力施設の安全に関わる部局(Division of Nuclear Installation Safety/External Events Safety Section)をご紹介頂き、半年間のインターンシップを経験させていただく運びとなりました。


 


お世話になったEESSの上司、同僚の皆様と
(写真中央が筆者)
インターンシップ期間中の業務や、特に印象に残っていることについてお聞かせください。

   IAEAの出版物の一つとして、加盟国に対して原子力安全に関する安全要件・推奨事項・指針を示した国際安全基準集があり、そのうちの一つに原子力施設サイトにおける地震ハザード評価に関する安全指針があります。2011年の福島第一原子力発電所の事故をはじめ、近年の発生地震から得られた知見や最新技術を反映すべく、この安全指針の改訂業務が進行中であり、今回のインターンシップでは、主にこの安全指針の改訂・翻訳業務に携わりました。大学院時代にもヨーロッパやイタリアの(建築)基準法を学んだ経験はあったものの、国際的な基準を取り扱うのは初めてであり、文化・技術的バックグラウンドが異なる加盟国の多様性を包括的に汲み取りつつ、中立的な立場から専門的事項を明示することの重要性を学ぶことができました。また、作業チーム間での議論を通し、原子力業界における実践についての知識を吸収することができたほか、大学院で学んだ欧米における地震リスク評価に関する確率論や統計学の知識、論文の校正作業から得た経験も活かすことができ、自分の専門性に対する自信と意欲の向上にも繋がりました。
 Covid-19の感染拡大の影響により、会議等のイベントは中止になってしまったものも多いのですが、地震ハザード評価に関するワークショップ等実施にも携わりました。原子力規制当局、電力会社、研究者等、世界中から様々な専門家が集まりそれぞれの立場から議論をするワークショップは、業界における組織間の関わりとそれぞれの役割に対して理解が深まり、非常に刺激的でした。

 印象に残っていることといえば、半年間という短いインターンシップ期間中に、IAEA新事務局長(Director General)の就任やCovid-19への緊急時対応等の重要な局面に立ち会ったことです。通常時の業務に加え、様々な局面におけるIAEAの組織の動きを内部から見ることができ、大変貴重な経験となりました。



今回インターンを経験し感じたこと、今後の目標についてお聞かせください。

 今回のインターンを経験し、IAEAのような国連の専門機関で働くためには、分野に関する高い専門性とともに、それを適切な立場から的確な表現で議論・伝達できる国際コミュニケーション力の両方が必須であると再認識しました。また、国籍・人種・性別・年代に関係なく多様な経歴を持つ人材が入り混じる職場環境では、個々の違いを理解し尊重しあうことが非常に重要であり、“違っている”からこそ個々の存在意義を高め、互いに補い合うことでチームとしてのパフォーマンスを高めることに繋がることを実感しました。特に、原子力安全や防災分野の面では、地震をはじめ多くの自然災害を経験している日本人であるからこそ、国際的な舞台でプレゼンスを発揮できる場面が数多くあり、文化や言語の壁に萎縮する必要など全くないのだと気づかされました。

 このような経験を通して、自分には母国日本についての知識がまだまだ足りないことを自覚したため、今後は実践的な業務の中で更に専門性に磨きをかけたいと考え、日本の民間企業での研究職を進路に選びました。今後レベルアップした自分で、また国際的な舞台でチャレンジするというのが、人生の次なるステップにおける目標です。
 



日本人インターン仲間と市庁舎前のスケート場にて
(一番左が筆者)


国際機関でのインターンを考えている皆様へのメッセージ、アドバイスをお願いします。

 私の今回のインターンシップ体験は、いくつかの偶然的な要素もあったのですが、積極的に情報を収集し、周囲の人に自分の意思を伝えるようになってから物事が良い方向に運び、実現まで至ったと思います。私が意識していたことを挙げるならば、チャンスが到来した時に即座に飛び込めるように、日頃からプログラムや制度に関する情報にアンテナを張っておくこと、英語など国連公用語で職務を遂行するコミュニケーション能力を身につけること、興味のある国際機関の専門分野の知識を深めること、でしょうか。また、海外にいると時に予想外の出来事に遭遇します。今回、Covid-19のパンデミックを海外で経験し、日頃から体力と精神力、あらゆる変化にも柔軟に対応する環境適応力を鍛えておくことも非常に大切だと実感しました。





 

朝のドナウ川沿い
(筆者撮影)

ウィーンでの生活はいかがでしたか?
 
 ウィーンには大学院時代の研究滞在を含めると計10ヶ月ほど滞在し、四季を通して楽しむことができました。都市と自然が良いバランスで共生しており、街中では芸術や音楽など格式高い宮廷文化を味わえる一方で、そこから少し離れるだけで葡萄畑が広がる丘陵やドナウ川沿いの自然を感じることができます。個人的には大学時代を過ごした京都と出身地である山梨とが混在しているような感覚で、外国だけれどもとても安心感を得られる都市です。業務終了後や休日には、街で見かける市民ランナーやサイクリストの影響を受け、市内の大通りや公園内、ドナウ川沿いを走ったり、自転車で郊外まで出かけたりしていました。週末を使ってヨーロッパの他の都市に遊びに行くこともありましたが、位置的にもアクセスしやすく、非常に便利です。